働き方が多様になる今、スターバックスには本業と両立しながら働くパートナー(従業員)がいる。金融の世界で数字を追う人もいれば、舞台で笑いを届ける人もいる。それぞれの場所で全力を尽くしながらも、エプロンを結ぶと少し違う顔になる。カウンターに立つときの緊張感、仲間との目配せ、ふっと笑い合う瞬間。違う世界に見えても、どちらにも流れているのは「人を思うあたたかさ」。そんなふたりの“もうひとつの時間”を覗いてみよう。

金融マンが見つけた“もうひとつの朝”
金融の世界から、カウンターの内側へ
金曜の朝。まだ街が目を覚ます前の東京・日本橋、コレド室町テラス店。静かな店内で、トージさんはゆっくりエプロンを結ぶ。外資系金融機関でアナリストとして働く彼は、世界のマーケットと向き合う日々を過ごしている。そんな彼がスターバックスで働き始めたのは53歳のときだった。
「アメリカで暮らしていたころ、毎朝スターバックスに立ち寄っていた」というトージさん。「帰国してからも通い続けていて、いつか働いてみたいと思っていました」と話す。その長年の思いが、今現実になっている。

週に一度、金曜の早朝。CS(カスタマーサポート)として、開店準備や納品チェック、店内整備など、さまざまな業務を担当する。外はまだ薄暗く、静まり返る中で聞こえてくるマシンの音が一日の始まりを告げる。「お客様が安心できる空気をつくるには、まず自分が穏やかでいること」。そう穏やかに語る声が印象的だ。照明がひとつずつ灯り、店が少しずつ目を覚ましていく。
ここで働き始めて印象に残っているのは、出勤と退勤のたびに行う“振り返り”の時間。出勤時には「今日はどんな体験を届けたいか」を言葉にし、退勤時には「できたこと」「できなかったこと」を共有する。そうやって一日を締めくくるうちに、少しずつ気づきが増えていった。「研修のときは理解しきれなかったミッションも、働くうちに“こういうことか”とわかってきました」と照れくさそうに笑う。