国立がん研究センターのデータ(※1)によると、日本では毎年約2500人の子どもが小児がんと診断される。医療の進歩により現在では約7〜8割が治癒できる時代になった。しかし、「命が救われたあと」に待ち受ける現実を知る機会はまだ多くない。半年から1年におよぶ入院生活、治療が中心となる毎日、退院後も続く孤独感と心の葛藤――。そうした子どもたちの「心」に、医療だけでは届かない支援を届けようと、一般社団法人「ゆうきとのぞみ」がクラウドファンディングに挑戦している。病気と向き合う子どもたちの見えにくいリアルはまだ社会に十分に届いていない。
※1 国立がん研究センター がん情報サービス「小児がんの患者数(がん統計)」

今回は、兵庫県立こども病院 血液・腫瘍内科 医長の植村優先生と、プロジェクト代表の越山直紀さんに、小児がん治療の現場のリアルと「ゆうきとのぞみBOX」に込めた想いを、語ってもらった。
治療が奪う「自分らしさ」——現場で目にする子どもたちの現実
――小児がんの治療を受ける子どもたちは、どのような入院生活を送っているのでしょうか?また、心身にはどのような負担がかかっていますか?
【植村先生】抗がん剤の治療はまず吐き気が大きいですね。また、口腔粘膜や消化管の粘膜が傷んで痛みが生じることも多い。さらに免疫力が低下しますので、それによって生じる感染症と戦いながら入院生活を送ることになります。検査自体も痛みを伴うものがありますし、ひと口に小児がんといっても病気の種類はさまざまですが、やはり半年から1年ほど入院が必要になることが多いです。

【植村先生】化学療法と化学療法の合間に一時退院して自宅で過ごす時間をつくりながら治療を継続するのですが、どうしてもご兄弟やお友達と過ごす時間は限られてしまいます。ご家庭の事情で両親ともに働いていて、面会自体が限られてしまうような患者さんもいらっしゃいます。また感染症のリスクから、子どもの面会はなかなかできないのが現状です。
――家族と離れて過ごす時間がどうしても長くなってしまうわけですね。
【植村先生】一時退院ののち、再入院される際に病棟の自動扉の前で大泣きして座り込んでしまって「入院したくない」と号泣しているお子さんの姿だったり、ガラス越しに手と手を合わせながらお互い泣いている患者さんやご兄弟の姿だったりが思い浮かびます。そういう場面を目にするたびに、治療だけではない支援の必要性を強く感じます。
――患者さんご本人だけでなく、ご家族への影響もあるのでしょうか?
【植村先生】そうなんです。お子さんが小児がんになってしまうと、どうしてもそのお子さんを中心に家族の生活がシフトしてしまいます。それ自体は仕方のないことなのですが、そのことで残されたご兄弟が疎外感を感じて、学校に行けなくなってしまったというお話を何人かの親御さんから伺ったことがあります。
――患者さん本人だけでなく、兄弟の心のケアも必要になってくるのですね。
【植村先生】もちろん頑張るのはまず本人ではあるのですが、やはり周囲のサポート、親御さんであったり、ご兄弟であったり、家族一丸となって立ち向かっていくものだと思っています。最近特に感じるのは、ご兄弟も含めた家族全体の心のケアがまだ足りていないというところですね。必要であればご兄弟にもお話しするようにしてはいるのですが、そういった心のサポートという点ではまだ十分には行き届いていないと感じています。