博多港から高速船で1時間強で到着する、玄界灘に浮かぶ長崎県の離島・壱岐(いき)。澄んだ遠浅の海に白い砂浜、ウニやイカ、鯛などを使った魚介グルメが人気の島だが、実はこの島の魅力はそれだけにとどまらない。今回の旅では、“麦焼酎発祥の地”ならではの焼酎蔵が開発したクラフトビールと出合い、110年以上の歴史を誇る茶褐色の濃厚な温泉を訪れ、さらには“神々が宿る島”と言われている地で、潮が引いたときにだけ海の中から参道が現れる神秘的な神社を訪ねた。そして神社めぐりの道中でホッとくつろげる島のカフェにも立ち寄って――。美しい海とおいしい魚介類だけじゃない、知られざる島の魅力を紹介する。
【ISLAND BREWERY】壱岐の焼酎蔵から生まれた“魚に合う”クラフトビール
訪れたのは、壱岐市勝本町にある「ISLAND BREWERY(アイランドブルワリー)」。壱岐は、16世紀に麦焼酎の製法が伝わったとされる“麦焼酎発祥の地”である。そんな焼酎文化が根付く島で、1887年(明治20年)に創業した老舗が原田酒造。その原田酒造から2021年に誕生したクラフトビールの醸造所が「ISLAND BREWERY」である。築130年以上の造り酒屋を改装した醸造所内には、造りたてのビールを味わえるタップルームも併設されている。
「長い間、焼酎を造りながら、壱岐島は夏の観光客が多いのでクラフトビールがあったらお客さんはもっと楽しめるだろうな!と思っていました」と話すのは、原田酒造5代目の原田知征さん。誰か造らないかな――。漠然とそう考えていたものの、なかなか実現しなかったことから「結局誰も造らなかったので、自分が造りました」と朗らかに笑う。しかし焼酎造りからクラフトビール造りにハンドルを切った背景には、もうひとつ大きな理由があった。当時、47都道府県で長崎県だけクラフトビールの醸造所がなかったことだ。
長崎にゆかりの深いトーマス・グラバーや岩崎弥太郎が、キリンビールの前身となる「ジャパン・ブルワリー」の設立に大きく関わっていたことを知っていた原田さん。「そんな長崎にクラフトビールの醸造所がなかったのが寂しかった」と振り返る。さらに、壱岐は福岡からのアクセスのよさも手伝って、近年は日帰りツアーが増え出し、島内に滞在せずに帰る観光客が多くなっていたという。「1日で壱岐の主要観光地を周りきれてしまうせいだ」と考えた原田さんは、島に魅力的な観光スポットがもう少し増えれば「日帰りでは周りきれない」と思ってもらえるのではないかと考えた。そこで「自分ひとりでいくつもは作れないけれど…」と前置きしながら、魅力的なスポットのひとつとしてクラフトビールの醸造所を立ち上げた。
■なぜ“魚に合う”というコンセプトなのか?白麹から生まれた、壱岐ならではの一杯
ISLAND BREWERYを語るうえで欠かせないのが、「魚に合うビール」というコンセプトだ。壱岐といえば、やはり魚。刺身をはじめとする新鮮な魚介を楽しみに訪れる人が多い島である。そこで原田さんが目を付けたのが、壱岐の麦焼酎に使われる「白麹」だった。「乾杯は基本的にビールでされることが多いと思います。そのときにテーブルに並んでいるのは前菜やお刺身ですが、食べ合わせを考えたときにビール(ラガービール)とお刺身の相性はあまりよくありません。魚の生臭さを出してしまうと言われているんです。だったら魚に合うビールを造ろうと思いました」。とはいえ、最初から「魚に合うビール」の正解がわかっていたわけではない。